第四話しぇんしぇい

 わずかにちょっとそのむかし、あるところに、エレーベーターの無い4階建ての古いテナントビルがありました。すでに立退き交渉は失敗しており、梃でも動かない店が5店舗残っていました。わたしは仕事仲間を介して交渉を引き継ぐことになりました。

 わたしはいつものように弁護士と一緒に、立ち退きの交渉に訪れました。噂にたがわぬ店舗ばかりで交渉は難航、彼らは立退料の吊上げを狙っておりました。

 中でも麻雀屋は簡単には行きません。なぜなら、麻雀屋は風俗営業法が適用され、小学校から100m以内での営業が出来ないのです。そのため移転先がなかなか見つかりません。わたしは苦労して何度も行き先を提案し、立退料も十分すぎるほど提示しました。しかし麻雀屋の店主はなかなか首を縦に振りません。 
 仕方なく、わたしはこう切り出しました。
「そしたらね、社長。わたしがビルのオーナーに家賃の据え置きを掛け合いますから。いかがですか?それなら申し分ないでしょう?」
「ん、まぁ。」
「あなたがこの場所で商売を営む権利は、確かにあります。その代わり他言無用ですよ。」
 麻雀屋の店主もそれには渋々同意しました。
 しかし一つ大きな問題がありました。そのビルの近くにも小学校があるのです。
ですが、その小学校はビル建築後に建てられた経緯もあり、大丈夫だろうと考えました。早速行政に問い合わせたところ、建て替え後の営業は新店舗の開業と同じ扱いなので認めないと言うのです。わたしは打つ手がなくなり困り果ててしまいました。

 万策尽きかけたころ、突然麻雀屋は調停を申し立ててきました。わたしはびっくりしました。しかし反面助かったと思いました。なぜなら、風俗店の場合、第三者である調停委員というのは、多額の立退料をもらって速やかに立ち退くべきだという立場になるものです。調停がはじまると、案の定そのように進みました。わたしは要求されるまま立退料を支払う事にしました。こうして和解が成立。わたしはホッとしました。

 すると調停後に、麻雀屋の店主がわたしのところにやって来るのです。そして弁護士の方を指差しながら言いました。

 「しぇんしぇい、あの人が不動産屋やろ?」
 「いやいや、あの人が弁護士の先生で、わたしが
 「実はなしぇんしぇい、しぇんしぇいが相手でほんまに良かったわ。ほんまのところ、どこにも行く気は無かったんや。」
 「え?」
 「しぇんしぇいがたくさん行く先探して来てくれたやろ。あれぇ、いつも断ってばっかりで悪いなと思ってたんや。本当の事言うとな、もうとっくに辞めるつもりやったんや。せやけどな、あんたらが交渉に来てくれたやろ。せやから自分から辞めるとは言わんと、うまく交渉してお金を貰おうと思うたんや。わしももう歳やし、こうやって立退き料を沢山もろて助かったわ。店を長年やってきた、そのご祝儀みたいなもんや。ありがとう。」
 「え~!」
 「退職金代わりや!しぇんしぇい、ほんまにありがとう!」

 最後までしぇんしぇいだったわたしは、まんまと一杯食わされてしまいました。

その日はなんとも釈然としません。帰りがけに大阪の福島にあるイタリアンバール「イルアルバータ」にやって来ました。心はイタリアへ!気分一新です。